シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
あたしの中で、"白衣"は男の美貌効果を抑えていたのか、暴力行為が余程インパクトがあったのか。
こうした私服の出で立ちだと、雰囲気がずっと華やかだ。
「「「イケメンか!!?」」」
日頃その名を欲しいがままにする櫂と煌と玲くんが、何故かその名を同時に叫び、目くじら立てて男を睨みだした。
あたしとしては。
誰にも悟られることなく神崎家の不法侵入をしでかして、友達を虐めることに対して憤って貰いたいのだけれど、この3人は別の理由で怒っているみたいで。
極上の美貌を持て囃されている身で、何を憂慮することがあるのか。
イケメン同士、凡人には考え及ばない複雑な胸中の煩悶でもあるのか。
そんな中、男の遠慮ない怒声が響き渡る。
「あれ程、僕の帰りを待てと言ったのに…翠くんと1時間以上早く家を出るとは!!!
物覚えの悪い頭は、これですかッッ!!!」
男は拳骨で飽きたらず、紫茉ちゃんの両コメカミに拳で"ぐりぐり"を始め、紫茉ちゃんが悲鳴を上げた。
焦るあたしとは裏腹に、
「朱貴(タマキ)~!!! 会議切り上げて、わざわざ此処まで来てくれたのか!!?」
小猿くんは朗らかに、和やかに…朱貴と呼んだ男に、横から抱きついていて。
「勿論ですよ、仕事なんかより翠くんの方が大切ですからね。駆け付けるのが遅くなってしまってすみませんでした」
それに返すは、優しい口調と極上の笑顔。
まるで花畑の中に居るような、長閑な背景が思い浮かぶけれど、今も尚男の手は、紫茉ちゃんに"ぐりぐり"だ。
「いいって!!! ああ、何て朱貴は優しいんだろう。まるで心までかつての崇高な兄上の様だな。お前もそう思うだろ、な? 紫茉!!!」
「痛い痛い!!! 何でこれを見て"優しい"なんて思えるんだ、お前は!!!」
「お黙りなさい!! 翠くんに何て口利くんですか!!!」
「いいって、俺、寛大だからさ」
「翠くんの大慈悲に感謝なさい、紫茉!!!」
「痛い、痛いって!!! 本気でやるな!!!」
「………」
――はっ!!!
しまった、思わず漫才劇のようなやりとりに見入ってしまっていた。