シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
"優しい"と形容した男に抱きついたまま、1人幸せに浸る小猿くんは、同じ男から、尚も容赦なく"ぐりぐり"攻撃される紫茉ちゃんを助ける気配が全くないから。
「あ、あの…紫茉ちゃんが痛がって…」
制止に入ろうと、近寄ろうとしたあたしの前に立ったのは、煌で。
巨大な高壁になって、あたしの視界から男の姿を消してしまった。
あたしは一生懸命背伸びをしたり、横から顔を出そうとしても、なぜか煌が邪魔をして必ずあたしと同じ方向に動く。
仕方が無いからその場で声を張り上げた。
「紫茉ちゃんを「お前は誰だ!!?」
今度は煌の怒鳴り声が被さり、男に届いて居ないようだ。
依然続く紫茉ちゃんの叫び声。
「早く紫茉ちゃんを「答えられねえのか!!?」
駄目だ、あたしの声が届かない。
何故この馬鹿犬、あたしの邪魔する!!!
横を擦抜けて行こうとしたら、
「!!?」
煌に強く手を掴まれていて。
奴は男を見据えたまま、振り返りもせずあたしの腕を取ったらしい。
野生の勘は恐るべし。
驚嘆しつつも、現在このワンコと冷戦中だったことを思い出し、ぶんぶん強く手を振り、その手から逃れようとするけど、まるで離れる気配なく。
奴の影からみえる櫂も玲くんも、男ばかりに威圧的な目を向けているだけで、あたしはおろか…紫茉ちゃんを助けようとする気は見られなくて。
「離さないと絶交」
奴の手はびくりと大げさな反応を返し、動揺したかのように一瞬その力が弱まった。それを見逃さずにいたあたしは、思い切り大きく手を振り、煌の手から逃れることに成功した。
微かな舌打ちが聞こえてきたけれど、無視だ無視。
それとほぼ同時に、紫茉ちゃんも"ぐりぐり"攻撃から自力脱出出来たようで、こちらに走ってきて。
あたし達は、感動の再会を果たした恋人同士のように、派手に抱き合った。