シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
そんな私の心を知らずして、無遠慮な大声が響き渡る。
「これが本当の瞬間移動って感じだよな。何十cmの移動レベルじゃねえよな」
「何だよ、その何か言いたげな目!!!」
相手にしているのは皇城翠なのだが、その目はちらりと芹霞さんに送られた。
勿論芹霞さんはそれに気づかず、櫂様と話しているようで。
羨ましそうに、忌まわしそうに…煌はそして唇を噛んだ。
仲直りしたいのに出来ないから、必要以上に大きな声を出して注意を向けようとしているらしいが、空回りだったようだ。
芹霞さんと櫂様の様子は、何やら深刻そうで…確かに他を寄せ付けない空気はあって。
玲様も、遠坂由香と話しながら、ちらちらと視線を向けて気にしているのは判る。
何を話し込んでいるのか。
誰もが気になるけれど、誰もが近寄れない。
「あ~~ッッッ!!!」
突然煌が仰け反るようにして喚き、頭をがしがし掻いた。
「突然なんだよ、馬鹿ワンコ!!!
びっくりするじゃないかよ!!!」
その声はよく透る分、更に大きく響き渡り、芹霞さんがこちらを向いた。
そんな時、七瀬紫茉がすっと皇城翠の背後に歩み寄り、
「翠、うるさいッッ!!」
拳骨を落とした。
彼女は、あのコート男の前ではがたがた震えるのに、皇城翠の前だと至ってクールだ。
そのクールな彼女が今度は…
「お前も落ち着け、煌」
何と――
煌の手を握った。
指を絡めさせて。
その場に居た人間全てが目を見開いて驚愕したが、一番驚いたのは煌だったようで。