シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「…何を、しやがる!!!」
驚くというよりも、怒りが強かったらしい。
褐色の瞳に冷たい光が横切った。
「え、な、芹霞!!? "猛犬"を抑えるには、手を繋げばよかったんだよな!!?」
くるりと振り返りながら、慌てたように七瀬紫茉は芹霞さんに声をかけた。
"ソノ気"は完全にない様子はありありで。
「……。……え? ……猛犬?」
暫し呆然と、芹霞さんは放心状態だったようで。
何だか泣きそうな顔をしていて。
それまで話していた櫂様の顔が、そんな芹霞さんの様子を見て…僅かに揺らいだ。
「お前…勝手に、俺に何すんだよ」
煌は、七瀬紫茉の喉元を片手で掴み、騒ぐ皇城翠の腕を反対の手で捻り取り、暴走寸前だ。
「煌、抑えろ!!!」
叫ぶ私の前で、すっと影が横切り…
煌の背後に現れた玲様が、その背中に肘を落とした。
咳き込んで蹲る煌の前で、玲様は解放した2人に苦笑した。
「突然ごめんね。こいつは…突然身体に触れられると怒り出すんだ。野生だからさ」
煌は、逃げの手段に"女"を使うけれど、それ以外のことで女から身体に触れられると怒り出す。ボディタッチ程度の触れ合いならいいが、あからさまな態度で触れられると、彼は酷く警戒して嫌悪する。
自分から触るのはいいが、触られるのは嫌。
身勝手すぎるこの男は、ある意味非常に判りやすい。
芹霞さんと緋狭様以外の女には、触れさせない。
それはまるで禁欲的(ストイック)のようなもので、慣れた遠坂由香とて、ここまでではないにしても…何らかの嫌悪感は見せるだろう。
七瀬紫茉にも打ち解けた様子ではあったのだけれど、流石にそこまでの行為を許すほどには心許していなかったらしい。
更には煩悶最中、よりによって"芹霞さんの前"…ということも無関係ではないだろう。
「玲、どけよ…」
かなり頭にきているらしい煌は、唸るように言った。
まるで猛犬の威嚇だ。