シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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「あの男…朱貴の素性が判らない!?」
歩きながら、玲様が驚いた声を上げた。
「え、だって…随分親しそうだったじゃないか」
そう皇城翠と七瀬紫茉を見たら、彼女だけは青ざめた顔でブンブン頭を横に振って否定した。
「親しいのは翠だけで、あたしは…」
確かに…あんな扱いされて、あれだけ真剣に怯えていたのを思い返せば、友好的だとはいえない間柄にも思える。
ただ不思議と、あの男から七瀬紫茉へと、やっていることに類するような"憎々しさ"は感じられなかったのだけれど、彼女にとってはそんなことは二の次なのだろう。
「ねえ、君は翠くんの何になるの? どんな関係?」
玲様の問いに、彼女は実に複雑そうな顔をした。
「関係あるらしいが…よく判らない。あたしの面倒を見てくれる周涅(すぐり)が、皇城の重鎮であたしは彼の妹らしくて…」
「…らしい?」
櫂様が目を細める。
「あたしは…昔の記憶がないんだ。記憶喪失って奴だ。両親が惨殺されたショックで以前の記憶が無くなり、兄だという周涅に面倒見てもらっている。
あたしは"虚弱体質"らしくすぐ熱を出すんで入院ばかり繰り返していたがな、最近飲んでいる薬が身体に合うらしくて、ようやく長い入院生活とおさらばして東京の…周涅の家に越して桜華に入ったばかり」
彼女の颯爽とした姿からは、"虚弱体質"のようには見えない。
両親が惨殺されたとは…まるで芹霞さんのようで。
だから気があうのかは判らないけれど、芹霞さんは他人事にも思えぬような憐憫の眼差しを向けている。
「だけど時折体調悪くなる時があって、意識ないまま保健室に運ばれ…そこで顔を付き合わせるんだ。横暴で高慢この上ない保健医、麓村(はむら)朱貴に」