シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「だから!!! 朱貴の何処が横暴で高慢なんだよ!!!」
「お前は黙ってろって!!! 周涅は桜華で教師やってるが、朱貴は周涅の旧知の間柄らしい。そこに1ヶ月ほど前、翠が朱貴を追いかけて桜華にやってきて…更には朱貴が翠連れて、ウチに…周涅のマンションに押しかけてきて、以来奇妙な同居生活をしている。全て周涅を通した知り合いだ。まあ…あたしにとって翠は、弟みたいなもんで、可愛いと思うよ。お調子者で手がかかりすぎるのが難点だが」
「…俺には姉貴はいないし。最後は余計なんだよ!!」
口を尖らせながらも、満更でもなさそうな顔。
判りやすい。
朱貴みたいな好意を体現していなくても、紫茉にも懐いているのだろう。
「朱貴と、こざ…いや、翠。お前の関係は?」
櫂様が怜悧な瞳を光らせた。
「俺の教育係。朱貴は謎の男なんだ。皇城の誰に聞いても、朱貴の素性は誰も知らない。知らないというより…その話題から逃げるんだ、皆。何でか」
皇城翠は腕組みをして、首を捻る。
「雑魚なら近寄れない、関係者以外立ち入り禁止の、皇城の奥の院に住んでいたんだ。皆が口を噤(つぐ)んでも、凄い奴には違いない。だから俺は、朱貴に教育係を頼んだんだ。そしたら…力もあるわ、優しいわ。兄上に次ぐ偉大なる崇高な奴だ。突然朱貴が置き手紙残して消えたから…それじゃなくても兄上の変貌で皇城に居づらくなっていた俺は、朱貴をおっかけて家を出たんだ。だけど…周涅がいるんだものな。監視だよ、結局」
周涅はどんな人物だか判らないけれど。
嫌悪に顔を歪ませる翠の様子から見れば、好ましくない男なのだろう。
櫂様は暫く、腕を組んで考え込んでいて。
「そういえばよ、星見鏡、返せよ」
皇城翠が、真っ直ぐに櫂様を見つめた。
「あれ…大切なものなんだ。お前が持っていても役に立たないぞ?って…もしかして芹霞の…家?」
最早、芹霞さんのことも呼び捨てだ。
「いいや、持ってきているな、玲」
それに対して、特に櫂様は咎めようとせず。
遠坂由香が背中に背負い込んだ銀色の袋を一瞥した。
あの袋は、リュックになるらしい。