シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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180㎡の広さを持つロイヤルスイート。
ゆったりとしたソファやダイニングテーブルを並べた広いリビングルーム。隣り合わせた応接間は高級調度品ばかり。
ベッドルームは2室ある。2台のクイーンサイズのベッドの他、更に2台のベッドを追加しても、それでも狭さをまるで感じさせない広々さ。
バスルームとシャワールームは分かれ、バスルームにはウォークインクロゼットやドレッサーも備えられている。
全面に大きな窓がついており、階下の眺望を楽しむことが出来る…まあ、一般客は余程頑張らなければ、宿泊できない贅沢さだろう。
このスイートに泊まるのは、何年ぶりになるのだろう。
櫂がまだ芹霞の元にて時を過ごし、僕が紫堂の次期当主だった頃、今の日本政府の首脳陣らとの非公式の会談を設けたのが、この場所だった。
――これは玲様、何と聡明でお綺麗な顔立ち。流石は紫堂の未来を背負って立つに相応しい風格と気品ですな。
幼い子供に、手を擦り合わせおべっかを使い…頼んでも居ないのに勝手に四つん這いになって馬の真似まで見せたあの醜い男達が、今はすました顔で日本のリーダーとなっている。
出世は彼らを成長させたのかと思いきや、今は櫂に取り入っているらしく、今も昔もスタンスは変わらないらしい。
「ロイヤルホテル…」
部屋に入るなり、芹霞は心臓を手で押さえて、少し苦しそうな素振りを見せた。
僕は、安定を見せているはずの芹霞の心臓が調子悪いのかと心配になって訊いたけれど…
「違うの。2ヶ月前…思い出して」
そういえば、このホテルから…氷皇の元より陽斗と逃げだしたんだっけ。
芹霞にとって、陽斗は特別だ。
彼女の命を支える最重要な男。
それはある意味、櫂と並ぶ"永遠性"を持っている。
それを少し悔しく思いながら僕は薄く笑った。
「ボクを除いて…皆家がなくなっちゃったね」
由香ちゃんがぼそりと呟いた。
「はあ…あたしの家。緋狭姉は電話繋がらないし。いつでもお入り下さい状態での放置…ああ絶対空き巣に入られる…。まあ貴重品は持ってきたから…あ!!!」
突然芹霞は声を上げて。
「ちょっと家に戻ってもいい?」
芹霞は櫂に訊いた。