シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「神崎~。家から逃げてきたばかりなんだぞ? それに前もってボクの四次元ポケット袋に貴重品は入れてたんだし…」
「判っているけど、金目の物じゃなくて…一番に入れておかないといけなかったもの、家に忘れて来ちゃったの」
「何だよ、それ~」
「あたしの凄く大切なものをしまっている宝石箱。机の中に入れっぱなしなんだ。空き巣に入られてアレ取られたら…生きていけない」
そう力なく項垂れた。
「…俺、行ってくるよ」
少しばかり震えを響かせながら、勇気を振り絞ったというような決意を顔に漲らせて、努めて明るく煌が言った。
「アレだろ? あの…緋狭姉が、昔芹霞の誕生日にプレゼントした赤いビーズの宝石箱。中身に入れてるもの、絶対教えてくれねえ奴…」
芹霞は煌と顔を合わせると、慌てたように、ふいと横を向いてしまった。
まだ、煌を許してはいないらしい。
見るからに。
項垂れて"落ち込み"を体現した煌は、唇を噛んだまま、また顔を上げて、声を揺らして言った。
「なあ、俺…それ取ってくるから。だからさ…
許してくれよ、いい加減」
褐色の瞳を芹霞に向けると、それを受けた芹霞は、困ったような顔をして、すぐ反対側に逸らしてしまった。
苦笑した僕が櫂を見ると、櫂は肩を竦めて見せ、そして芹霞に声をかけた。
「芹霞、先刻言ったろう? 煌との誤解は解けたんだ。もうお前が怒ることはない」
すると芹霞は、不満げな顔を煌に見せて、またぷいと横を向き、
「煌には頼みたくない」
「芹霞。…じゃあ俺が取ってきてやるから、そうしたら煌と仲直りしてくれないか?」
櫂が仲裁を買って出たということは…長引きそうに思っているのか。
「櫂も駄目。櫂と煌は絶対駄目なの。あたしが…」
「僕が行くね」
僕は微笑んだ。
「僕も…駄目なの?」
すると芹霞は僕をまっすぐに見て、頭を振った。
僕には、煌の言う"アレ"は判らないけれど。
櫂と煌は駄目で、僕はいい。
その理由は判らないながらも、その事実が凄く嬉しい。
僕だけが特別のようで凄く嬉しくて。