シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


「僕は車を運転出来るから。車だとそう時間かからないし」


それなら。


僕だけしか出来ないことを遂行したい。


櫂と煌の前で、それを見せつけてみたい。


「場所を教えて? それとも僕と一緒に行く? 僕なら…蝶々が飛んで来ても判るし…守って上げられるよ?」


"僕"が暴れるんだ。


"僕"が破裂しそうなんだ。


膨らみすぎた風船の如く。


芹霞に関してだけは、僕は――


「…やめる。きっとあんなもの、誰も盗まないから。机の鍵こじ開けてまで、持って行くようなものでもないだろうし」


芹霞は――

僕が願い出た特別性を打ち消して。


「いいよ、すぐ帰ってくるから。ね?」


縋る僕を、それでも芹霞は笑顔で却下して。


「…はあ、皆。気を遣わしてごめん。

煌、ちょっと来て!!!」


口調を変えて僕の横を擦抜け、項垂れたままだった煌の腕を掴むと、隣室に入ってしまった。


「芹霞も芹霞なりに…タイミング図っていたんだろうよ。だけど意地っ張りだからな。やはり…煌は元気でいて貰わないと」


苦笑交じりに、それでも嬉しそうに。


仲直りの場というより、2人きりということに危機感を感じている僕とは、あくまで対照的な余裕ある様子で。


幼馴染の絆。


櫂だから芹霞も煌も理解出来るの?


そして最終的には。

櫂が芹霞を奪い取っていくの?


日ごと、その恐れが胸を占める。


"約束の地(カナン)"で、櫂だけが芹霞を連れ戻せた…あの現実を見た時から。


僕の存在は、芹霞にとっては櫂程の影響力はないと思い知った時から。


焦る。


凄く焦るんだ。


僕だけにある、不変な特別性って…あるの?


「……玲様」


気付けば、桜がこちらを向いていて。


「お顔色が悪いようです。お休みなさっては?」


桜は、何かを懸念している。


僕の心の動きを、察知したのか。


"僕だけを特別に思って欲しい"


ただそれだけなのに、桜まで警戒させてしまうか。


嗤いが込み上げる。
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