シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
――――――――――――――――――――――――――――……
寝静まったのを見計らい、僕はこっそりとホテルを出て車を走らせた。
夜の運転は久しぶりだ。
開けた窓から流れ込む夜風が、心地よく肌を掠める。
いい車だからなのか。
忌々しい青色だけれど。
ただ――
眺め遣る助手席に、誰も居ないのが無性に寂しい。
芹霞が座っていてくれたら。
僕の特別な位置で、とびきりの笑顔を向けてくれていたら。
赤信号で車を停める度、僕はハンドルの上に両腕を置いて顔を伏せる。
願いは強いのに――
それは現実にならない。
夜のネオンはキラキラ綺麗で。
まるで硝子細工のよう。
芹霞になら。
もっと綺麗な夜景を求めて、何処までも連れていって上げるのに。
芹霞を起こして、こっそり連れ出せばよかっただろうか。
一抹の後悔が心によぎったけれど、だけど僕だって…危険の最中にいる芹霞を、迂闊にひょいひょいと連れ回したくない。
蝶から守れると言えども、僕にだって警戒心はある。
「……くそっ」
ああ。
判ってるよ。
――お前では無理だ。
あの言葉が、心に突き刺さっている。