シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
――――――――――――――――――――――――――――……
櫂と玲は、桐夏の学園祭でのゲリラライブで、2人が妖しい雰囲気を醸せば、周囲は自ずと静かに倒れ行くことを学んだようで、朝っぱらから多くの生徒を地面に鎮めても、罪悪感をまるで感じていねえ。
気絶者ほったらかしで、愉快そうな笑み浮かべてずんずん歩く。
お色気カズンは、強力な合体技を編み出したようだ。
紫堂の血なのか判らねえけれど、こういうことにノリノリな2人は、普通なら赤面もので男の体裁気にするようなものでも、難なく徹底的にやってしまう。
美少女、玲。
本当に玲もよく化けるよ。
高校なんか卒業した歳のくせ、更には女の格好で…何処をどうみても年頃の、清楚で儚げなお嬢様。
20歳のえげつねえ男なんて誰も気付いていない。
玲は胸ポケットから黒縁の眼鏡を取り出して、かけた。
「玲くん…眼鏡姿もステキ」
芹霞は…"百合"の気があるんだろうか。
玲が女装すると、ぽっとした陶酔したような顔つきになる。
それとも…玲だから、なのか?
「そう? ありがとう」
にっこり。
それでもその微笑みは、いつもより生気なく…儚げなもので。
「ねえ、玲くんでしょ? 宝石箱…」
芹霞がそう尋ねると、玲は一瞬だけ…凄く暗い顔をしてから、微笑んだ。
「ふふふ、ご想像にお任せするよ。きっと…君が大事に思う人が、とってきてくれたんだよ」
それは"えげつない"笑みで。
どうして…今の流れで?
「うふふふ。そうだね、きっとあたしの大事な人だね」
"大事な人"
その言葉を向けられたはずなのに、玲の顔には柔らかさはなく…逆に強張ってしまったように見えた。
「…玲? どうした?」
いつもとは何か違う玲に、思わず聞き返せば。
玲は薄く笑って、俺の鬘を鷲掴んで、ぽいと遠くに投げてしまった。
「玲~~ッッ!!!
お前何するんだよ、俺の黒髪を!!!」
「さあ、早く行こう? 理事長室へ」
ぴりぴりとした空気を纏いながら…皆は歩き出した。
鬘を拾う俺とは反対方向に。
ああ本当。
櫂や桜の言う通り、玲はこの黒髪が気に入らないらしい。