シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
裂岩糸が顕現できるよう、私はポケットの中の石を密かに撫でる。
そんな時、
「顔写真一致!!!
あ…皇城家の特令が…」
携帯を持っていた女が、芹霞さんを指差して言うと、男は無表情のまま万年筆らしきものをしまった。
"皇城家の特令"
皇城翠と関係があるのか。
彼らはそのまま消え去った。
芹霞さんが追いかけようとしたが、それを私や担任らが必死に抑えて宥(なだ)めて…芹霞さんは渋々教室に戻った。
教室では、芹霞さんの行動に賛同した生徒達から拍手が送られたが、自らの無力さ嘆く芹霞さんは溜息をついたまま…担任に促された席に座った。
音楽再生機器(デジタルオーディオプレイヤー)からはまだ音楽が流れ続けている。
他の生徒達が止めようとしたが、操作方法がよく判らないらしい。
英語教師がやってきた為、隣の席の女生徒が鞄からタオルを取り出し、急いで機械に巻いて、持ち主の机の中にしまいこんだ。
微かに聞こえはするけれど、殆ど気にならない。
私の席は芹霞さんの斜め左後ろ、私の隣には遠坂由香。
「葉山勉強…どうしようね? 桜華は英語に力入れているから、英語の教科書はオリジナルで長文三昧。設問から何から英文だらけで、悪いけど聞かれてもボクはお手上げだよ?」
遠坂由香が心配そうに小声で聞いてきたから、机から教科書を取り出し、教師が指示した頁とそれ以降の頁を捲った私は、
「この程度なら大丈夫。いつも玲様に教えて頂いてたので」
「…ははは。そうかい、"この程度"ね」
然程の難解さはないとは思うのだけれど。
前方に座る芹霞さんは、教科書を開いてぱらぱら見ていたが、やがて大きく溜息をついて本を閉じ。
携帯を取り出して素早く何かを打つと、携帯を握り締めてじっと見ている。
数回それを繰り返したけれど、相手からの返答はないようで。
突然机に突っ伏した。
と思ったら起き出して。
やがて、きょろきょろと教室を見渡し始めた。
その動きは、見ていて飽きない。
少しだけ、笑いたくなってきた。