シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「むふふふふ。葉山ってさ…男装がスイッチなんだ?」
「え?」
「男装で居た"約束の地(カナン)"で、何かあったんでしょう。神崎と」
あったといえばあった。
なかったといえば何もない。
全ては私の一方的な想いだけ。
「主以外には無関心で無反応が君のスタイル。きっとボクが、"おお葉山、さっきから君に女の子達から熱い視線が注がれているよ"って言っても、君は唾棄しちゃうんだろうね。その君としちゃ、神崎限定で、こんなに柔らかい表情するなんていい傾向、いい傾向」
彼女が三日月目で笑ったから、私は俯いてしまった。
「ねえねえ…七瀬紫茉ちゃんってこのクラスにはいる?」
「七瀬…? あ、それは2つ隣のクラスだよ。多分今日は休みだよ。皆、朝残念がってたから」
前から聞こえてくる芹霞さんの声。
私はあくまで櫂様にお仕えする身。
更に芹霞さんより年下で。
その芹霞さんと同じ教室に居るということは、まるで夢物語。
普通なら、ありえないもので。
もし私が、違う人生を歩んでいたら。
いつも考えもしないことすら、考えてしまう。
愚かしいことを。
これならまるで馬鹿蜜柑。
今は焦げ蜜柑か。
煌は…認めたくないがかなり美形だ。
ただ馬鹿なだけで。
七瀬紫茉があいつの手を握った時、芹霞さんの表情が崩れた。
その心の揺れをどう説明すればいいのだろう。
そして焦げ蜜柑になることを、あんなに拒否したことを邪推するならば。
いつも芹霞さんに懐く幼馴染とは違う、"如月煌"を意識したということか。
あの馬鹿は、自分に強みがないと1人悶々と悩んで、情けなく引篭ったけれど、事態はそこまで悪くはないと私は思う。
何せ鈍感同志の反応だ、仮に煌に有利な事態が訪れようと、それに気づかないままに終わってしまいそうだ。
――なんて、絶対あの馬鹿には教えるものか。