シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
酷い!!!
許せん、あの狼藉者!!!
「駄目だ、出るんじゃない!!」
あたしは計都の制止を振り切って、ドアをバンと開けた。
「女の子に何するの、櫂の偽者!!!」
仁王立ちで叫んだあたしに、男はゆっくりと顔を上げた。
漆黒色のさらさらとした…髪。
漆黒の切れ長の目。
その顔は酷く端正で。
櫂とよく似ているけれど、完全別人の…一回りは年上のような男。
そっくりさんというよりは、櫂の面影を持った…
「警察呼ぶよ!!!?」
櫂の…極悪大人バージョン。
道を踏み外したような、数年後の櫂だ。
ここまで似ているのなら、縁者?
咥えタバコをして、凄みある顔を向けてきて。
これでもかってくらい、"成金"を見せつけるようなごついアクセサリー。
高価そうな光沢あるスーツが、下品に見える。
何より櫂の…真っ直ぐに透き通るような瞳の色ではない。
濁りきって澱んでいるその様からは、真っ当な人生を送っていないというよう空気をぷんぷん漂わせている。
「誰に口利いてる、小娘…」
男はあたしを睨んできて。
場の空気が急激に下がったのが判る。
だけどあたしだって負けちゃいない。
あたしの櫂を穢されているのなら!!!
「誰に断って、紫堂の名を騙るのよ!!?」
こんな男、あたし知らない。
あたしは紫堂のことは判らないから、櫂も玲くんももしかして知っている男なのかも知れないけれど…だけど少なくとも、櫂がこんな男を好んで手元においておくはずが無い。
こんな…無慈悲で残酷な光湛える瞳をした男なんて。
「お前、誰だ?」
男はタバコを、土下座したままの…メイドの肩に押し付けて消した。
短いメイドの悲鳴。
怒鳴ろうとしたあたしは――
「部屋間違えました~、さようなら~」
計都に襟首掴まれ、強制退出させられた。