シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
だけど。
煌が手を出す前に、あたしの手の方が先に出た。
「せりちゃん言うなって言ったでしょう!!
この――マリモ男!!!」
パシーーン!!
平手打ちだ。
「マリモは酷いなあ。判ったから、如月さん」
へらへら~って、何喜んでいるんだ、この"ドM"マリモ。
あたしはそんな趣味はない!!!
気分を害したのはあたしだけではなかったみたいで。
「ああ!?」
"如月さん"
自分に喧嘩を売られたと思い、煌が凄んだ声で怒鳴った。
途端、マリモ男は青ざめて震えだして。
「違う、あんたじゃなくて、この子…如月芹霞ちゃんのこと」
「あ?」
暫く…沈黙が流れた。
「"如月芹霞"?」
あたしを指差し首を傾げる煌に、あたしは渋々頷いた。
否定して、マリモ男に本名を晒したくない。
「……」
また沈黙。
そして――
ぼんっ。
そんな音が聞こえてきそうな勢いで、煌の顔が真っ赤になった。
今までの凄味は何処へやら。
あまりの豹変ぶりに…他の男2人はぽかん顔。
「芹霞~ッッ!!!」
勘違いワンコが両手拡げてあたしに抱きつこうとしたら、
「盛るな!!!」
いつもの如く、頭突きして。
「じゃあ迎えが来たんで帰ります~、お先~」
よろめいたワンコの腕を掴んで、見送り組みに手を振った。
「ええ!!? "彼氏持ち"だったのかよ、如月さん!!」
マリモ男の泣きそうな声とは裏腹に、煌は一瞬…顔をふにゃりと弛ませ…そして、きりりと顔を引き締めた。
「彼氏じゃねえ、
――亭主だ!!!」
そう――
威張り腐って、得意げに言ったから。
外に出た途端――
「誰が亭主だッッッ!!?」
脛蹴りをして身を屈めた煌の、その首を両手で絞めた。