シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 

「玲の発作は? 心臓の方は!!?」


『見ている限り、良好とは言えん。だが桜曰く、常備薬は、紅皇指揮下で玲の為に開発されているものらしいから、効果は絶大らしい。薬が勝つか、玲の錯乱が勝って発作を引き起こすか、何とも言えない。

さあ、俺達は何処へ行けばいいだろう?

ロイヤルホテル? 刺客がいるか…宿泊すら危ういだろう。

煤だらけのマンションに…戻るか? 片付ければ玲くらい寝かせられるかもしれないな。衛生上良くはないが。

紫堂本家? 玲の発作が酷くなりそうだ。


そう考えたらさ…ないんだよ。

行き場が。

安心出来る…場所が。


ここなら安心だと思える場所が。


――ああああ!!』



突如櫂の苛立った声がして。


「初めてだよ、こんな扱い…。


どうすれば…

この状況を突破できるのか…

何も浮かんでこない!!!


玲の――…

一大事だというのに…くそっ!!!』


ドガッ!!


電話の向こうから、破壊音が聞こえて、


『紫堂、ベンチを壊すな!!! 師匠を揺らすなって!!」


遠坂の慌てた声がした。


櫂は――

当初こそ余裕ぶった口振りだったが…その実、追い詰められていたのだろう。


玲を助けたいのに助ける術がない。


行き場を無くして漂泊する紫堂の御曹司。


『気高き獅子』として、燦々とした太陽の下を歩いてきた櫂にとって、完璧主義を遂行してきた櫂にとって…これ程屈辱なことはないだろう。
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