シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

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嫌な予感だけが湧き上がる。



突き放せど突き放せど、やたら後ろから触りたがる変態ワンコを張り飛ばし、半ば喧嘩気味に再度後ろに乗ったあたしは、落ち着かない心を紛らわすように煌に抱きついた。


――俺が抱きつくと嫌がるくせに!!!


何か拗ねていたらしいワンコ。


あたしは、返事の代わりに煌のお腹の前で組んだ手に力を込める。


――…大丈夫だって。


煌がぽんぽんとあたしの手を叩いて、ぎゅっと上から握った。


煌は暖かい。


流暢で気の利いた言葉はないけれど、その分身体全体で…その温もりで癒してくれる。


どんなに口が悪くても、どんなに変態でも。


それは昔から変わらない。


昔はあたしと同じ背丈だったのに、いつからかニョキニョキたけのこのように1人成長して…今ではあたしが抱きつくだけだけど。


煌は昔。我侭で傲慢で、怒鳴ってばかりで、すぐ力で訴える…本当にどうしようもない狂犬のような奴だった。


だけど同じ家に住む家族ならば、他人のように見過ごすことも出来ず。近くに居ればいるだけ、出来が悪ければ悪いだけ、構いたくなるのが人情、あたしの性分で。


幾度本気の喧嘩をして、血を流してきたことか。


このままだと殺し合いになりそうな険悪な空気の中、緋狭姉の存在が、あたし達を同志として結びつけた。


緋狭姉の前では、あたし達の流血交じりの喧嘩は所詮じゃれあい。


緋狭姉が本気で怒れば、あたし達は戦慄して、泣き叫びながら許しを乞うしか出来ない。


それ程、緋狭姉は恐怖の存在だった。


だからいつしか。


緋狭姉に怒られて、真冬であろうと素っ裸で外に放り出されれば…お互い自然に抱き合って、お互いの温もりが現存出来ていることに安堵しながら…涙と鼻水だらだら流した凄まじい不細工顔で、おいおい泣いて慰めあっていたんだ。


そこに至った喧嘩の原因などすっかり忘れて…。



櫂とはまた違う、あたしと煌の触れ合い。


守るとか守られるとか、そんなもの一切抜きの同等の立場。


煌だけは、姿が変わっても…違和感も寂寥感も感じさせない温もりがある。


遠く離れることはないと信じられる、身近な温もりがある。


今の櫂のような…"身分"という隔たりを感じることはない。
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