シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
内部は広大だった。
まるで楽園のような大自然に包まれている。
突出した塔を取り囲むように点在する無数の小さな棟も含めれば、黄幡会が所有する敷地面積は、東京ドーム程ありそうだ。
どの建造物も、短い真紅色が流れる…あの奇妙な漆黒色に覆われていて。
偶然にしては出来すぎている。
"約束の地(カナン)"でのあの"壁"は、かなり特殊なものであったはず。
それを、櫂を締め出したという黄幡会本部の建物が使用していて、「あら不思議、偶然の一致ね~」などと納得出来るわけがない。
どうしても思わずにはいられない。
"約束の地(カナン)"も2ヶ月前の東京での惨事…藤姫という存在に繋がっていたのなら、黄幡会もまた…何らかの関係があるのではないかと。
「ねえ煌。…また"生ける屍"…ゾンビ、出てくるのかなあ?」
大木の影から、辺りを窺っていたあたし達。
あたしは、つんつんと隣の煌の服の裾を引いた。
「いらねえ。一生分の生ゾンビ見たからもう必要ありませんって、お帰り願おうぜ?」
「願えば叶うかなあ?」
「……。どうせなら、違うこと叶って貰いてえけどさ」
あまりに切ない眼差しを、じっとあたしに向けてくるから、
「ああ、そうだよね。櫂達を早く確実に助けるんだものね!!!」
ガッツポーズしたら、頬を抓られた。
「いひゃい、こう~ッッ!!」
「間違ってないけど、ムカツク。無性にこの口、ムカツク!!!」
一直線状の褐色の眼差しに、揺れる黒髪。
違和感あるその組み合わせが、まるで初対面の男のようで。
髪がただ黒色になっただけなのに、顔のパーツは何1つ変わっていないはずなのに、別人を相手にしているように思ってしまった。
改めて真っ正面から見つめた時、
やっぱり煌も凄く整った顔していると思ってしまった途端。
心臓がありえない、やばい音をたてた。
黒ワンコに。