シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「この…気持ち悪い壁で覆われた建物は、強力な幻覚作用があるらしいんだ。だから目に頼らず、この鏡で進んで行けば、きっと捕まっている奴らに辿り着けると思う。朱貴の"気"を感じるから…間違いなく紫茉はこの塔にいる。そして紫堂達も恐らく此処にいるだろう。気配…感じるし」
小猿くんと同じ"気配"を感じた、素人のあたしと櫂の番犬。
その感覚は正しいか否か、判断に困るけれど。
「随分…詳しいね、幻覚がどうのとかって」
「知らぬ…仲でもないからさ、黄幡会。事前知識があったからな」
そう口を噤んでしまった小猿くん。
あたしは、それらを追及する時間はない。
「さあ行くぞ。早く助けないとやばいぞ?」
「どういうこと?」
「此処の教祖は…特殊能力があるらしい。だから朱貴も慌てて紫茉を助けに行ったんだけれど。願いを叶える代わりに…心を抜かれる」
「心?」
「そう。それが抜かれれば…よくて廃人」
「つまり…"生ける…屍"」
上手いこというなあ、と小猿くんは笑うけれど。
こんな処で、2ヶ月前からのゾンビとリンクさせないで欲しい。
あたし達はゾンビの中を生き残った。
こんな処で…倒れて溜まるか!!!
「よし、じゃあ小猿くん!!! 鏡を使えば、塔の内部に侵入できるということだね!!? よし、じゃあ煌を呼んでこよう。というより、あんたなんであんな紛らわしい現れ方したの!!! きっと今頃煌がパニクってる」
「お前達が侵入者だっていうこと忘れて、あまりにぎゃあぎゃあ騒ぎ出したから焦ったんだよ!!! 俺だって侵入してるんだ。下手に敵誘き寄せたくないし!!! とりあえず間近に居たお前を黙らせてから、あの馬鹿ワンコも…と思ったんだよ」
まあ…確かに騒ぎすぎたから。
心情が判らないでもない。
とりあえず外で短気起こしているだろうワンコを呼びに行こう。
鏡で確認したドアを開け、廊下に出たあたしは、
「煌――…あれ?」
絶句した。
居ない。
煌が居ない。