シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「ふうん……? 葉山の王子様、ねえ?」
由香ちゃんは、小猿くんの片想いに気づいたようだったけれど、桜ちゃんはまるで違うことを考えていたようで…というより、まるで小猿くんなんか眼中にないようだ。
元々桜ちゃんは、そう易々と人に心を開いてみせるタイプじゃないし、愛想がいいわけでもなく。
予測はしていたけれど、か弱い乙女だと(勝手に思って)助けてくれた小猿くんに対して、特に桜ちゃんからかける感謝や労(ねぎら)いの言葉はなく。
少なからず、何らかの悦ばしいリアクションを期待していたらしい小猿くんは、何だか拗ねたように口を尖らせて、ちろちろと桜ちゃんを盗み見していた。
そのいじけた様子は、何処となく煌を彷彿させて。
構って貰いたいのに構って貰えない…そんな甘えっ子モードに入る時のワンコに似ている。
あんな強面の顔をして、初対面の人間に一方的に威嚇して喧嘩売るくらいガラ悪いのに、幼い子供のように可愛い仕草をすることがある煌。
いつもいつも煌は、外見上から作り上げられる固定観念というものを簡単に壊してくれる。
もうあたしは慣れきったけれど、それが何だかおかしくて。
思わず顔を綻ばせたあたしは、そして現実を思い返して顔から笑いを消す。
煌…大丈夫だろうか。
煌が連れ去られるなんて、よっぽどの相手だ。
凄く不安だ。
早く小々猿…見つけてくれないかな。
あれこれ考えていた時、桜ちゃんの固い声が聞こえて。
「此処は…何処なんでしょう?」
きょろきょろと辺りを見渡した。