シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 

「壁を擦抜ける特技を今生かさなくてどうするんだい? 向こうから開いたのなら、きっと開ける仕掛けはあるはずで。ちゃんと仕掛けを外すんだよ? ないなら、向こう側の安全確認したら、ボク達連れながら壁を擦抜けるんだ。どうだ、面白い試みだろう?」


出来れば…皇城翠と共に壁を擦抜けたくは無いけれど。


絶対何かオチがありそうで。


「俺の移動は30cmなんだぞ!!? 壁が30cm以上だったらどうすんだよ?」


彼はそちらのことを気にしているらしい。


30cm以下なら、すり抜けられる自信はあるらしい。


「うーん、壁男としてまた新たな境地に生きるしかないねえ。ガ・ン・バ!!」


「な、ななな!!! まるで人事のように!!! 大体瞬間移動は凄い精神力が必要で、他人なんか連れて移動なんて「"君だけが頼りなんだ。君だけにしか頼めないんだ"」


突如口調を変えて彼の言葉を遮った遠坂由香だが、その目は三日月型で。


「ううう…」


明らかに皇城翠の心に変化が生まれていて。


訝る私の耳に、遠坂由香が囁いた。


「ふふふ。七瀬からちらりと聞いたんだ、この前。"翠は単純だから、こういうお願いの仕方をすると、ほいほいやるから…困った時には使え"って」


「し、仕方がねえな…全くもう…。

俺がいないと駄目な奴らだ」


本当に何て単純なんだろう。

何処かの橙色を思い出してしまう。


しかし。

何でちらちらと私を見るのだろう?


「ほらほら葉山。トドメは君のひと言」


そして私の耳に囁いた。


「え? "頼れる男は格好いい"……?」


???


遠坂由香の言葉を繰り返してしまった私の前で、皇城翠がガッツポーズをして壁の前に自ら歩み出た。


「さあ、見てろよ? 不可能を可能にする、皇城翠は偉大だ!!!」


やけに自信満々だ。


それが不安になるけれども。


まあ…やってみる価値はあるだろう。


駄目なら、その時はまた考えればいことで。


お手並み拝見、としようか。

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