シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「どうしてこんな処に!!?」
警戒距離を取りながら、あたしは聞いた。
この男が、何故黄幡会に居るんだ?
「そんな目で睨むな。
本当に…お前は面白い女だ。
真っ直ぐ俺を見れるとはな…?」
あたしの質問には答えず、ただただ愉快そうに笑う顔は、本当に悪魔染みた櫂にそっくり。
「――…どうだ?
俺の女(もの)になるっていうのは?
可愛く甘えてみせれば何でも買ってやるぞ?」
こういう男は大嫌い。
人を道具(もの)扱いするなんて最低。
あたしは――
土下座する女の子の頭を靴を履いたままの足で踏み潰したあの場面を…煙草の火を女の子の肩で消したあの場面を忘れていない。
あれを平然と出来る時点で、最早人間のクズ。
「俺のものになれ」
櫂の顔をして、そんな真剣に下卑た言葉を吐かないで。
虫酸が走るから。
「真っ平御免。
全身全霊にて、お断りします」
躊躇いもないあたしのきっぱりとした返事が、男の機嫌を著しく損ねたのが…男の纏う空気で判った。
凄い威圧感であたしを脅しにかかっているけど。
櫂を穢そうとするこの濁流に、呑み込まれるわけにはいかない。
櫂の為になら、あたしは真っ向から受けてやる。
「はははは。
やっぱり俺はお前が気に入った。
お前を手に入れたくなった。
それに随分と――
楽しませてくれそうな身体をしているしな」
ぎらついた肉食獣の目線が、あたしの全身に走る。
その不快さに全身総毛立った。
女と見れば結局は身体。
道具としか考えていない男の思考に、更に忌まわしさだけが募る。
「…目も悪ければ、耳も悪いようね。
生憎あたしは"がきんちょ"なんで、アダルトに楽しみたいならお色気満載なお姉サマが溢れる、夜の街にでもどうぞ?」
精一杯の虚勢も、男を喜ばせるだけのものだったらしい。
「余裕だな…?
神崎芹霞」
あたしは…目を細めた。