シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
僕の目の前で、景色が変わっていく。
血塗られた部屋から、漆黒色の部屋へと。
そして壁には。
芹霞が抱き締めている、両手を広げた形で繋がれていた櫂がいた。
大丈夫、櫂の身体から血は流れていない。
だけど…端正な顔に、その頬には…殴られたような腫れがあった。
その部分に、芹霞は唇を寄せていて。
偶然か、必然か。
どちらにしても間違いなく、芹霞は自分で櫂を見つけたんだ。
僕でさえ、幻影に惑ったというのに。
芹霞に触れられない櫂の顔は、芹霞への切なる愛に溢れていて。
動かそうとする手からは鎖の音だけが鳴り響き、手枷からは血が滴り落ちる。
もどかしさに、櫂の顔が苦渋に歪む。
芹霞の言う通り、櫂はただ"待つ"だけの男じゃない。
自分で何とかしたいと思う男。
そして己の貪欲さを自力で満たす、そんな男。
そしてその貪欲の対象は、全て芹霞から始まっていて。
芹霞を手に入れるために、櫂は『気高き獅子』の異名を手にした。
櫂がどれだけ芹霞を愛しているのか、僕はよく判っている。
僕は櫂から直接聞いていたから。
どれだけの想いを抱えて、どれだけの覚悟をしているのか…僕は聞いていたから。
どれだけの努力を重ねたのか、そこまで櫂は口には出さないけれど、僕には判っているつもりだ。
並大抵の努力で、"次期当主"になんかなれやしないのだから。
芹霞が求める"永遠"を、誰以上に櫂自身が求めている。
櫂の恋情と、芹霞の心は繋がっている。
そう――思わずにいられない…2人の抱擁。
手を使えぬ櫂が、いとおしげに顔だけを傾け、芹霞が櫂の首筋にだきついて顔を埋めて。
それはあまりに自然すぎて――
ああ…
気が狂いそうだ!!!