シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
嫉妬。
嫉妬。
嫉妬。
芹霞を奪われたくない、焦るような激しい衝動。
今にも芹霞を腕を引いて、抱き締めたくて仕方がない。
櫂に触らせたくない。
櫂の視界に入れさせたくない。
黒い醜い感情だけが、"僕"を炙り出していく。
完全に狂ってしまえたら。
理性も何もかもを崩壊させて、ただ泣き喚くことが出来たのなら。
どんなに楽だろうか。
そんな時、櫂と目があって。
芹霞を傍に置いたまま、澄んだ目を僕に寄越して。
「玲……よかった。
お前が無事で、本当によかった……」
そう、柔らかく笑った。
だから僕は――
「お前が逝く…悪夢を見た。
もうごめんだ、あんなのは。
…絶対ありえないと、誰の手でもなく…俺が絶対お前を呼び覚ましてやると、自力で抜け出して来てよかった」
櫂を嫌うことなど出来やしない。
僕を信じきっているこの瞳を、僕の心の闇を打ち消すこの力強い瞳を――残したまま逝くことは出来ない。
僕は。
櫂を支えるために、この場に居るのだから。
8年前。
櫂が居なかったら、僕は今この場には居ない。
その時、パンパンパンとやる気なさそうな拍手がして。
「お涙頂戴の再会劇。えらく感動させて貰ったよ」
櫂と酷似した…男が言った。
「お前は誰だ?」
櫂が、警戒に満ちた低い声を出した。
「俺を知らないのか。玲から聞いてなかったのか?」
嘲るようにしながら、僕に振り向いた。
「――…玲。
この男は誰だ?」
本当は。
隠したかったのだけれど。
櫂に知られたくなかったのだけれど。
僕は、強張った顔で言った。
「彼は…――お前の兄。
紫堂…久涅(くずみ)」
「久涅……? 玲の前の…」
そう、僕の前の追放された"次期当主"。