シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「はじめまして、我が弟。噂に聞けば、紫堂稀代の"次期当主"だったとか」
「――…"だった"?」
櫂が、ぴくんと眉を顰(ひそ)めて、片目を細める。
「やはり玲から聞いていないんだな。
紫堂の次期当主は、
――…この俺だ」
そう断言する久涅に、櫂の顔が嘲るようなものになる。
「これはこれは我が兄上。失脚された貴方が、返り咲きを狙っているなど。そこまで紫堂は…貴方の残虐性を満たすものですか」
慇懃無礼に毒づいた櫂に、久涅はまた不敵に笑う。
「ほう? この俺を挑発でもしているつもりか。だがな、櫂。今置かれた状況がどういうものか…本当に把握しているのか?」
「ええ十分に。この手枷は俺の動きを封じるものであって、俺の力を封じるものではない。俺の力を吸収するのは…部屋の仕切りたるあの壁だけ。
ならば。
壁に至る前の障害物には、俺の力を封じる手立てはない」
ああ、櫂。
――無力だというのなら、僕の力を受けてみろ!!!
「ほう? 俺に…紫堂の力を向けるか、櫂。この俺に、力で勝てるとでも思っているのか? "次期当主"は口だけだと?」
それは。
"あの時"のように愉快そうに。
それを真っ向に受けた櫂は、口調を変え…不敵に笑う。
「俺だけではなく、俺の大事な奴らまでをも窮地に落とした…その償いはして貰う。
"次期当主"が力で決まるのなら――
誰が相応しいか…かつての玲にその座を奪われた、お前自身で見極めろ」
「櫂…やめろ…」
しかし僕の言葉に、櫂は耳を貸さず。
櫂は…怒っているのだと、今更乍ら気付く。
「仮にも紫堂の血を引くのなら。俺の"程度"が判るはずだ。
父上が選んだ紫堂の後継者は…この俺だ」
――…風がざわめいた。
「櫂、やめろ、やめるんだ!!! お前でも…久涅には……」
「俺を…打ち負かせると思っているのか、櫂」
櫂が、緑の光に包まれる。
「やめるんだ、櫂!!!
力を使うな!!!」
僕が手を伸ばすよりも早く、
櫂の力が発動された。