シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「おいおい、櫂の親父さんよ」


煌が、がしがしと頭を掻きながら、親父を見た。


「煌!!! 頭(ず)が高い!!!」


桜が怒鳴り、臣下として頭を垂らしたままの"礼儀"を貫くように諭した。



「悪ぃけど、桜。今回ばかりは…聞けねえや。

櫂の一大事に、礼儀もクソもあったもんじゃねえ」



ゆらりと橙色の巨体が揺れる。


元々、煌は親父を嫌っている。


それは元制裁者(アリス)として、惨憺たる扱いをした紫堂当主への恨みなのか、俺の心を敏感に感じ取っているのかは判らないけれど。


いつも桜に言われて、渋々"礼儀"を見せる煌が、今は冷たい眼差しで日常通りの…いや、いつも以上に攻撃的な凄味を見せた。


判る。


これは――



「次期当主の剥奪は。櫂が芹霞に告ったからなんて、そんな馬鹿みてえなことが理由なのか?」



煌の怒りだ。


「今までの櫂の功績を考えれば、満場一致で櫂が次期当主に相応しいことは明らかだろうよ。仮にも櫂と同じ血が流れるのなら、櫂の力量がどれ程のものか、判るだろう。それを…惚れた女に告ったから何だと言うんだ? 櫂だって1人の男だ、あんたの操り人形じゃねえ。


そんなくだらねえ理由に…


納得出来るわけねえだろうがッッ!!!」


煌の怒鳴り声。


「大体!!! 次期当主に相応しくないと、排斥した男を再び選ぶなんておかしいだろうがよッッ!!! こいつの凶暴さくらい、紫堂で一番偉い当主なら、見抜いているんだろうがッッ!!


何で櫂じゃなくてこの男なんだッッ!!?」


それを制する者はなく。


玲も桜も。


誰もが煌と同じ詰るような目をして、親父を見ていることに…


俺は少しだけ…救われた気がした。


俺は――

いい仲間に出会えて、本当に良かった。


本気でそう思う。


だからこそ思うんだ。


俺が姿を変えようとした8年前の決心は、


次期当主になる為にしたことは。


決して無駄ではなかったと。


次期当主にならねば、此処までの繋がりはもてなかったろう。

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