シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
拳に走る衝撃。
目を瞑ったまま、モロに俺の攻撃を受けた櫂は、宙に吹っ飛んだ。
壁にぶちあたる直前。
櫂は片手で床に外気功を発し、その反発力でひらりと一回転すると、壁との衝突を回避する。
そして。
床に綺麗に着地すれば、漆黒の…俺が憧れるさらさらとした髪が、俯く櫂の首元から零れ落ちた。
それを掬うように櫂は片手で掻き上げながら、そして徐(おもむろ)に…口角を手で拭う。そして、血の唾を床に吐くと、ゆっくりと顔を上げて…真っ直ぐな漆黒の瞳を俺に向けた。
ああ。
やっばり俺、こいつが大好きだ。
8年間の思い出を消したくはねえ。
こいつ以外に、俺は傅(かしず)きたくねえ。
俺は、お前と…お前が心許す奴らと共に、いつまでも走り続けたい。
切に――そう思った。
ぶつかる俺と櫂との視線。
やがて。
櫂の鋭い視線が、ふっと和らいだ。
「煌、お前…拳は大丈夫か?」
「……うるせえよ。自分のほっぺたの方を心配しろよ。つーか、言うことはそれだけかよ」
拗ねたように俺が言うと、櫂は…満足そうににやりと笑った。
判る。
不敵な…挑発するような目の強さ。
纏う、威圧感。
櫂は――
いつもの『気高き獅子』は戻ってきた。
少し…頬を赤く腫らせながら。