シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
やがて櫂様が戻ってきた時、安堵の溜息が聞こえたのはどこからなのか。
「とりあえず――
現当主に何とか話を聞かなきゃ駄目だろうね」
玲様は言葉を紡ぐ。
「謀反反乱など、紫堂潰しに動き出している奴らの思惑だと信じたい処だけれど、火のない処に煙は立たない…そんな諺通りの事態が仮に起こっているのだとすれば、元老院が動き出した今となっては、今後紫堂の立場はかなりまずくなる。更に此の期に乗じて、紫堂に対する反勢力が活性化でもしてくれば、一筋縄にいかないぞ」
その口調は、かなり堅いもので。
「……ああ。ただ…親父が本当のことを言うか、だ。伊達に紫堂の7代目当主をやっているわけではないからな」
櫂様は、眉根を寄せながら漆黒の髪を掻き上げた。
「下手に機嫌を損ねると、返り討ちに遭う。よくて肩書き剥奪ってとこか。ある意味、元老院以上に扱い辛い」
櫂様の薄い笑いに、玲様は押し黙ったまま。
彼がいい見本なのかもしれない。
櫂様との勝負に負けた途端の冷遇は、かなりのものであったのだろう。
櫂様のお父様…現当主は、刃向かう者、弱き者を赦さない厳格な方だ。
だからどんな側近であろうと、当主の周囲には常にぴりぴりとした緊迫感が漂っている。
「刃向かって追放された身内は数知れず。俺を含めた多くの息子とて容赦ない」
「多くの息子って…。櫂、お前…一人っ子だったよな?」
煌が首を傾げた。
「ああ。同じ母親から生まれたという意味ではな。だが、父親だけを固定すれば、腹違いの兄弟姉妹なんてごろごろいるさ。顔も見たことがない兄弟姉妹が、果たして本当に血の繋がりあるのかどうかも定かじゃない。お前もそうだよな、玲」