シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
噂で聞いたことがある、櫂様の"お兄様"のお話。
性格に問題在りとあまりいい噂は聞かないけれど、それ故に彼の反乱も、それ自体…未来を憂う玲様推進派の者達の画策だったのではないかと、今でも一部まことしやかに伝わっている。
「櫂の死んだ母親って、正妻だったよな。後妻だったのか」
「3番目のな。今親父は5番目の正妻を娶っているが…それでも先妻の息子たる俺がこの肩書きを維持出来ているのは、偏に父権第一の紫堂の実力主義のおかげだろうな。普通なら、継母に虐められて落ちぶれるだろう、"シンデレラ"の如く。
だけど俺の母のように"成り上がり"の"シンデレラ"が認められるのなら、紫堂は…王道を地で行く夢物語とも言える」
それは自嘲気な笑いで。
「自分に負けた相手は、再起不能までに徹底的に潰せと言うのが親父の主義。だが俺は違う。玲…お前も違うだろう?」
私は…かつて玲様に負けた。
次期当主であられた玲様は、そんな私を潰さずにいてくれた。
そしてその玲様は、かつて櫂様に負けた。
次期当主であられた櫂様は、そんな玲様を潰さずに傍に置いている。
巡り巡って、そして私達は共に在る。
「変えるからな、玲」
櫂様は力強く笑う。
「俺は、紫堂を変える」
それは、完璧主義を完璧に遂行される時の、不敵な顔で。
決して玲様を冷遇したりはしないと、逆に冷遇した父親を赦さないと…そんな意思表示にも私は思えた。
「ははは。お手並み拝見」
櫂様だから信じると…そんな絶対的信頼感を感じさせる、鳶色の瞳。
だから――
私達は安心する。
櫂様と玲様の信頼の絆は、決して消えることはないと。