シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

櫂の変貌が、現実を突きつけた。


櫂の苗字なんて、あたしはそれまで気にしたことはなかった。


櫂はあくまで櫂であり、どうでもいいことだった。


今思えば――

昔櫂のお母さんが、櫂が"紫堂櫂"と自己紹介したことに対して、悲しそうな顔をしていたのが妙に印象深く記憶に残っているけど、あの当主…父親なら、紫堂本家から母親諸共追いやった櫂に、本当は"紫堂姓"を与えてはなかったのではないかと思う。


そして8年前。

名実ともに紫堂姓を勝ち取った櫂は、突如、為政者としての輝きを放った。


顔なんか今まで見たこともない櫂の父親が、どれだけ巷(ちまた)では恐れられていたやり手の当主なのか。

それを凌駕するといわれる『気高き獅子』が、どれだけ凄い存在なのか。


あたしは周囲の賛辞と畏怖により、奇しくもそれを知ることになる。


櫂は、本来の姿に覚醒したんだ。


あたしの元での姿は、仮の姿だったんだ。


寂しくないわけがない。


あたしはそこまで物分かりはよくはない。


だけど相手はあたしの大好きな櫂だから。

昔ほどの親密さを望みながらも、出来ない現状を…我慢してきたんだ。


もし、櫂から紫堂がなくなったら――

櫂はあたしに戻ってくるのかな。


昔みたいに唯の櫂に戻れば――


また昔みたいに、あたしだけを全面的に考えてくれるのかな。

もうあたしは寂しい思いをしなくてもいいのかな。



そんなことを考える身勝手な自分がいて、ほとほと嫌になる。


幼馴染、失格だ。
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