シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「れ、玲くん…あたし、脱衣所の外の部屋で待ってるから」


ドアの向こうから、くぐもった芹霞の声が聞こえてきた。


きっと…鼻血の手当てをしながら話しているんだろう。



僕を待っていてくれる。


ただそれだけで、僕の単純な胸は高鳴った。


「玲くん、着替えて出てきたら…お話…したいの…。いいかな?」


「……。ちょっとだけ待っててね、今すぐ着替えて、髪軽く乾かして早く出てくるから」


こんな時に不謹慎かも知れないけれど、芹霞が僕を追いかけてきてくれて、僕を求めて、ずっと待っていてくれるというそのことだけで。


凄く…満たされる気がした。


嬉しくて嬉しくて仕方が無く、顔が弛んでいるのが自分でもよく判る。


芹霞を避けてまだ1日も経っていないというのに、芹霞避けたのは僕だというのに、気怠く痛みを感じる体は…ただひたすら芹霞の心を求めて。


きっと僕は、そのちぐはぐさ故に発作を起こしたのだろう。


発作後の倦怠感が顕著に体に現われている。


結局僕は、皆の手を患わせ、きっとそのせいであの塔に捕まることになってしまったのだろう。


皆は僕のせいにはしないけれど、推測ぐらいは出来る。


全て全て、僕の浅慮さが原因なんだ。


それでも今――

心に占めるのは、芹霞のことばかり。


芹霞と僕の仲が進展出来るだろうか。


芹霞は、僕の存在を不可欠だと強く思ってくれているだろうか。



貴重な休息の一時に――


僕は幸せに浸ることは、赦されるのだろうか。



僕は。


芹霞の大切な宝石箱に――

僕の思い出を必要としていない宝石箱に、


無理やりにでも、僕をねじ込もうと思う。


思い出ではなく、僕自身を…大切だと思って貰えるように。


待っているだけは駄目だ。


動かないと駄目だ。


シンデレラが――

大切な硝子の靴を落としてくれないのなら。


僕が会いに行く。


いつか僕の処に来てくれると待っているだけでは、他に奪われる。


いや…その前に、耐えきれずに僕が壊れてしまうから。


硝子の如く――。


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