シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「朱貴!! 心配していたんだぞ!!?」
廊下で七瀬の声が聞こえて、朱貴と共に居間に入ってきた。
ゆるやかなウェーブかかった煉瓦色の髪。
濃灰(ダークグレイ)色の瞳。
確かにそれは、秀麗な顔立ちをした麓村朱貴で。
七瀬は笑顔で、両手一杯のでかい皿に、握り飯を山に積んで入ってきた。
「朱貴!!! よかった、帰って来れたんだな!!!」
「はい、翠くん。僕は大丈夫です」
朱貴に抱きつく小猿を、笑顔で抱き留める朱貴。
それはきっと…この家での和やかな日常の風景なのだろうけれど。
俺達は…顔を見合わせた。
…何だろう。
俺も桜も、警戒を解くことが出来ねえんだ。
朱貴の…翳りすぎた無表情に思える顔に…油断出来ねえ。
「ああ、紫茉。おにぎりは台所に持ち帰りなさい」
七瀬は眉を顰めた。
「これは、芹霞達に食べて貰う為に、心を込めて作ったものだ」
「判っています。だから、持ち帰りなさい。
折角作った食べ物が、散り散りとなってしまう前に」
「――…え?」
その瞬間。
朱貴が、俺と桜を擦抜けて櫂の腕を掴み、鳩尾に拳を入れたんだ。