シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
「あ…あが……」


遠坂が苦悶の表情を浮かべた。


俺達は驚き、制しようと立ちあがったが、朱貴の引き抜かれていく手の中に…さなぎのような形をした巨大な蚕が1つあったのに…絶句した。


半透明で…粘液まみれで濡れたそれは、びくんびくんと跳ねている。

生きて…いるらしい。


「おえ…っ」


小猿が口を手で押さえた。


「まだ孵化する前でよかったな。孵化して蝶になっていたら、この女も…お前達も、やがて身体を寄生されて、操られていたかもしれん」


口調を変えた朱貴は、掌の奇妙な蚕をくしゃりと握りつぶした。


飛び散る黄色い液に、俺は思わず顔を顰めた。


「どういうことだ?」


動じた様子もねえ櫂が、低い声を発する。


「監視役の…使い魔だ。だがこれは…式神のような術者の分身ではなく、三尸(さんし)、術者の意のまま相手の中に巣くい、最終的に相手そのものを操る…媒介のような忌まわしいものだ」


遠坂が…時折妙に大人しかったのは、このせいだったのか?


「この女の特性は何だ?」


「……コスプレオタク」


俺がそう即答すると、朱貴は嫌そうな顔をした。


「機械だ」


櫂の言葉に、そして一同…それに思い至ってはっと顔を見合わせる。


玲の補佐も出来る程、機械に秀でた遠坂が操られていたとしたら。


「僕のメインコンピュータの動きがおかしくなった理由はそれか。パスワードその他、要の部分も、そして僕がこれから取ろうとしていた手段も、由香ちゃんを通して全てが筒抜けか」


玲が悔しそうに舌打ちした。


「しかし由香ちゃんが何故…何処から!!?」


「三尸自らは移動しない。ということは、この女…被害者の口から直接…"移された"な?」


移された?


「……くっ。榊を病院に連れた時か!!!」


何で玲がそう思い至ったのか俺にはよく判らねえけれど、榊経由だというならば…三尸だかいう蚕は――

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