シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
昔、玲と話したことがある。
――緋狭さんが紫堂の次期当主の教育係専門になったのは、お前の父親が当主についた頃からだったはずだ。それ以前、お前の祖父以前の代ではそんなものがあったとは聞いたことがないな。
つまり紅皇たる緋狭さんは、たかが紫堂の当主にしか過ぎぬ親父の命に、何故か従っているわけで。
それにより、その頃からどの程度紫堂に深く入り込んでいるのかは判らないけれど、五皇が紫堂の縁者だからと言う理由で、紫堂の教育係となるのは、理由としては弱すぎる気はしていた。
何故緋狭さんが選ばれ、緋狭さんが了承しているのか。
それは俺の知らぬ過去にあるのではないだろうか。
しかし幾ら調べてみても――
緋狭さんのことについての情報は、見事に一切出てこなくて。
"約束の地(カナン)"が創立された13年前に、11歳たる緋狭さんが紅皇職についたばかりだということは、彼女自身から聞いた事実。
それ以外の、緋狭さんに関する過去は何一つ判らない。
それは五皇たる者全て、自らの情報を徹底的に隠匿しているせいもあるだろうが、何より緋狭さんに関しては、紅皇の実家として、神崎家が普通社会に存在出来ていること自体異質なもので。
芹霞の両親は…緋狭さんが何をしているのか、気付いていたのだろうか。
判っていて黙認していたのだろうか。
緋狭さんが帰ってきて全員が揃った神崎家は、本当に幸せそうな家族で。
紅皇としての多大なる力を放つ緋狭さんが、人間らしい表情を見せている瞬間だったと思う。
――芹霞ちゃああん、死なないでえ!!
それはもう…見ることは出来ないだろうけれど。
しかし。
俺を助けてくれたのが緋狭さんだから。
緋狭さんだけが俺を見捨てなかったから。