シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「即日だったんだ。仕事…早すぎるよね」
苦々しい笑みを浮かべる玲。
ああ、こいつには既知のことだったのか。
きっと。
一体何が入っているのか判らない…芹霞の大切なあの赤い宝石箱を取りに来て、そして久涅や緋狭さんに会ったのだろう。
玲を連れてきてよかったんだろうか。
そう思っていたら――
「僕も…緋狭さんに会いたいんだ」
哀しげな翳り顔で玲は微笑んだ。
かつての玲の教育係。
玲の体調を気遣い、"玲"の解放を目論む緋狭さんは…玲にとっても特別な存在なんだ。
俺達は"赤色"の信奉者であり、愛弟子だ。
それは煌も桜も同じこと。
「鍵は…開いてるね」
遠坂から鍵を受け取った芹霞だが、玄関のドアノブを回してそう言った。
遠坂は…ずっと八の字眉だ。
体内に変なものを植え込まれていたとはいえ、操られていた時間は短いものだったらしく…大方の自意識はあるらしい。
所々理屈に合わない記憶のズレがあったものは、三尸だとかいうものの存在のおかげで説明がついてすっきりしたようだが、それにより…よりによって敬愛する玲から信頼されて託された秘密情報を流したことが、無意識であったにしても…かなりこたえているらしい。
恐らく、俺達の口座が凍結されていたのも、そうした情報の流失のせいかもしれない。
ただ――
情報を盗んだとしても、玲という専門家(エキスパート)を追い込めるまでに活用出来るということが、俺にはひっかかる。
三尸を介した情報が誰に流されていたのか。
それによって俺達は、対策をたてねばならないだろう。