シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


「緋狭姉の気配ないな…居ないのかな」


煌が目を細めながら、周囲を警戒している。



「緋狭さんが、もし俺達の知る緋狭さんであるのなら。

必ず居る。此処は…彼女の絶対的な領域(テリトリー)だ」



確信があるんだ。


緋狭さんは居る。


俺達を待っている。



その時。


「櫂様…桜はちょっと地下の修練所を…」


そう言いかけた桜は、突如顔を歪めた。



「桜? 大丈夫か? 顔色悪いぞ?」


「…大丈夫です、桜は元気です」


「桜ちゃん…足の傷、まだ治りきってないんじゃ? 小々猿が治してくれてはいたんだけれど…完全じゃないんじゃないの?」


芹霞が心配げな顔を向けた。


「いえ…足ではないので」


俯いた桜は、そう…言った気がする。


小さすぎて、よく聞き取れなくて。


「え?」


代表して聞き返した芹霞に、はっとしたように桜は顔を上げて。


「い、いえ…櫂様、桜…地下を見て参ります!!」


俺の返事を待たずして、駆けるようにして消え去った。


「何だ、あいつ。何であんなに焦ったように?」


煌が首を傾げた。


「大丈夫かな、葉山。汗…吹き出ていたよ、額から」


遠坂は、益々眉の角度を急降下させた。


「鬼の攪(かく)乱かな? だけどさ、此処が久涅に見張られていたら、そんな状態の桜1人でやばくないか?」


煌の固い声色に、玲が反応した。


「久涅が出てきたら確かにまずいな。2時間まであと15分弱。警護団も出てくるだろうし…。一応、僕も行くよ、何だか心配だ」


「じゃあ全員で行こうぜ? 散り散りになるのは危険だし」


そして俺達は、桜を追うようにして、神崎家の地下へと潜った。


何故桜が1人で先に飛び出したのか、その意味を知らずに。

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