シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
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神崎家の地下にある修練所。
そこが煌と桜の、緋狭さんとの稽古場だ。
俺も玲も煌からよく話を聞くものの、そこに踏み込むのは初めてだ。
芹霞曰く神崎家に地下室が出来たのは、8年前に芹霞が入院している最中であったらしい。だとすれば、この修練所は、専ら煌を本格的に鍛え上げる為に設立されたものなんだろう。
緋狭さんは本気らしいが、どうもそこから極力逃げようとしている煌を見る限りにおいては、師匠の愛は弟子には上手く伝わっていないようだ。
「あたし緋狭姉から、危ないから稽古を覗くなって言われ続けていたんだけど、あたしだけ仲間外れみたいで気分良くないから、一度覗き見したことがあるんだ。…ああ見なきゃよかったよ、煌と緋狭姉の稽古。もう二度と見ないって心に誓ったんだ」
どんな稽古だったのか、芹霞がぶるぶると震えた。
「ま、ある種の殺し合いみたいなもんだからな。あれで緋狭姉に殺気があったら、俺とうに此の世にいねえから」
煌はいつも通りけろりとした顔で、特に珍しいものでもないといったように豪快に笑う。
いつも思うのだが、俺も玲も…恐らく桜も、芹霞が恐怖を感じる程の凄惨な稽古をつけられた覚えはない。
それだけに、緋狭さんの…煌にかける情熱は、並々ならぬものを感じる。
それが、同情はあっても俺達の嫉妬として煌に向かないのは、偏(ひとえ)に…煌の大らかな性格故のものだろう。
収納庫から地下に繋がる梯子を下りれば、ひんやりとした空気が体を包む。
電気はついていた。
何処かの武芸道場のように、手入れが行き届き、整然とした広い場所だった。
「そんなに凄い稽古をしている割には、床とか磨かれて綺麗だね」
遠坂の言葉に、煌は笑った。
「掃除も修行でさ。俺掃除上手いだろう。主夫向きだとは思わないか?」
玲を意識しているのか、芹霞をちらりと見ながら言えば、
「だったら、まず自分の部屋を綺麗に片付けろ!!!」
芹霞の頭突きを食らい、
「そうだよね、命の危機にならなきゃ片付けられないなんて、主夫失格だよね」
涼しい顔した玲からの毒攻撃も受け、煌は拗ねてしまった。