シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
剥き出しのコンクリート壁には、西洋東洋問わず、あらゆる武具がコレクションのように飾られている。
かなり使い込んでいるらしいが…これは全て煌が緋狭さんから訓練を受けてきたのだろうか。
「煌が訓練に逃げ腰でなければ、僕は煌に敵わなかったかも知れないね」
玲がこっそりと、俺に苦笑した。
何処までの記憶があるのか判らねど、煌は元制裁者(アリス)として、完成された暗殺術を持っている。
もし煌が緋狭さんに出会っていなければ。
壊滅した殺戮集団の一員であっても、そうなる為に体に刻みこまれた苦痛の憎悪は、間違いなく紫堂に…俺に向い、俺は制裁者(アリス)の№2たる煌を相手に、生き残れていたのか判らない。
時々…思い出す。
8年前の初めての出会い。
血のような赤い瞳をした橙色の刺客…BR002を。
――芹霞ちゃあああん!!!
「どうした?」
俺を覗き込むのは、褐色の瞳。
残虐な赤色を消した、俺の幼馴染。
「いや……」
一時は憎悪も感じたけれど…緋狭さんに諭された。
――目で見たものだけを、全てだと思うな。
一番辛いのは緋狭さんだ。
――悲劇を繰り返したくないなら、現実を変えろ。全力で。
悪いのは紫堂だ。
元老院の邪な欲望をはね除けられない、弱い紫堂だ。
「桜いねえな。地下から気配はするんだけれどよ…あそこかな、休憩室。3部屋あるからな、何処かにいるんだろう」
「何? そんなものまで、緋狭姉作ってたの?」
芹霞が驚いた声を上げている。
「というかさ、神崎家の土地よりもずっとずっと広くない?」
「ああ、お前知らなかったのか? 隣の空家、緋狭姉買い取っているんだ。地上はそのままの形状で残しているけど、地下はこうして拡大して2軒分の広さにしているらしいぜ?」
芹霞は俺を見た。
隣家の空家。
かつて、俺の死んだ母親の実家。
買い手がつかないとは思っていたけれど、ああ、緋狭さんは…俺の思い出を守ってくれていたのか。