シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「どうして…そんなことを気にする?」
――死なないでええ!!
「ん。小猿の護衛の…元制裁者(アリス)のチビ、雅の方に言われたんだ」
――よく…紅皇も手元に置いたものですわ、ご自分の…仇を。
「俺の記憶が薄れているのと、何か関係があるのかなって思ってさ」
俺は、心で舌打ちをした。
余計なことを。
「…記憶が曖昧なお前を揺らがす、心理作戦だ」
そう断定して、褐色の瞳を見つめる。
「緋狭さんの行動は必然だ。お前を育てたいと思ったから育てた。それ以上の何が必要だ?」
「……」
「お前は、神崎家に引き取られたのが不服なのか?」
ぶんぶんと、頭が横に振られる。
「たださ…。もし俺が、緋狭姉の大切な何かを…壊してしまっていたのならと思ったら、居たたまれなくてさ」
――お母さん、お父さんッッ!!?
――しっかりしろ、芹霞!!?
「ははは。そうだよな。もしそんなことになってたら、俺、今頃緋狭姉に殺されているよな。ははは。やっぱ櫂に聞いてよかったわ。俺、お前の言葉なら信じられるからさ」
淀みない褐色の瞳に、俺は顔をそらしたくなった。
判っている、それでも煌はまだ揺らいでいることを。
煌は理性レベルで俺の言葉を信じても、本能レベルでは納得していない。
悪い、煌。
だけど俺は、一切お前に言うつもりはないから。
緋狭さんが、そう願ったから。
感付いている芹霞でさえ、そう願っているから。
俺も玲も桜も。
そんなことは、お前に伝えるつもりはないから。
お前がお前である為に――。
それはお前には必要ない記憶だ。