シンデレラに玻璃の星冠をⅠ


「どうして…そんなことを気にする?」



――死なないでええ!!



「ん。小猿の護衛の…元制裁者(アリス)のチビ、雅の方に言われたんだ」



――よく…紅皇も手元に置いたものですわ、ご自分の…仇を。


「俺の記憶が薄れているのと、何か関係があるのかなって思ってさ」



俺は、心で舌打ちをした。


余計なことを。


「…記憶が曖昧なお前を揺らがす、心理作戦だ」


そう断定して、褐色の瞳を見つめる。


「緋狭さんの行動は必然だ。お前を育てたいと思ったから育てた。それ以上の何が必要だ?」


「……」


「お前は、神崎家に引き取られたのが不服なのか?」


ぶんぶんと、頭が横に振られる。


「たださ…。もし俺が、緋狭姉の大切な何かを…壊してしまっていたのならと思ったら、居たたまれなくてさ」


――お母さん、お父さんッッ!!?


――しっかりしろ、芹霞!!?


「ははは。そうだよな。もしそんなことになってたら、俺、今頃緋狭姉に殺されているよな。ははは。やっぱ櫂に聞いてよかったわ。俺、お前の言葉なら信じられるからさ」


淀みない褐色の瞳に、俺は顔をそらしたくなった。


判っている、それでも煌はまだ揺らいでいることを。


煌は理性レベルで俺の言葉を信じても、本能レベルでは納得していない。


悪い、煌。


だけど俺は、一切お前に言うつもりはないから。



緋狭さんが、そう願ったから。

感付いている芹霞でさえ、そう願っているから。


俺も玲も桜も。


そんなことは、お前に伝えるつもりはないから。


お前がお前である為に――。


それはお前には必要ない記憶だ。




< 610 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop