シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
戸棚の中には、びっしりと錠剤が詰まった小瓶がある。
ああ、保健室らしいアイテムだ。
そう思ってラベルを見たら
"ジキヨクナール"
「これ…ZodiacがCMやってる風邪薬だろ!!!」
煌が威嚇してきた。
「本当にどうして行く先行く先、あいつらの影があるんだよ。なんでこんな風邪薬が5,6…13個も必要!!? 小猿は病弱なのかよ!!?」
ふと、あたしは紫茉ちゃんを思い出して。
「紫茉ちゃん、病弱だったはずだけど…まさか、風邪薬が治療薬なわけないし。だけど『翠くん専用』がないっていうことは誰のかねえ?」
朱貴という男の考えが、よく判らない。
普通…こんなに同じ風邪薬を大量に備蓄していないだろう。
それだけよく効く凄い薬なんだろうか。
確か凄く売れているはずだったけれど。
「それにしてもよ~、自由に使っていいって朱貴は言ったけれど、これだけ『翠くん専用』ばかりなら、飲み物飲むのも気が引けるな」
冷蔵庫を開けた煌がぼやく。
「よし、じゃあ談話室で飲み物買ってこようよ。櫂達にも差し入れしてあげよう。煌は飲み物、何がいい?」
「"むにゃむにゃみかん"」
「……やめろ、あの怪しげなものを即答するのは」
あたしの顔は嫌悪に引き攣った。
「ええ!!? 上手かったぞ、むにゃむにゃして。ああ何だか、むにゃむにゃ言ってたら、どうしても"むにゃむにゃみかん"が食べたくなった」
あたしは得体の知れない、警戒すべき未知なる食物としか思えない。
「だからあたしが買ってくるのは"飲み物"で…」
「よし、じゃあ全員分の"むにゃむにゃ"を買いに行こうぜ?」
聞いていないよ、このワンコ。
だけどまあ、煌が元気が出るなら…むにゃむにゃでもいいか。
あの風邪薬…腹痛にも効果あるんだろうか。