シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「物理的にも…駄目だね、師匠。やっぱりアクセスを拒否される。時間が経つにつれて、出来ることが制限されているよ。まるでこちらの動きを先読みして手を打っているか、"向こう"の対策能力が…異常な速度で"成長"しているのか、判らないけれど」
由香ちゃんはそう言うと、がくんと項垂れた。
「ごめん…ごめんよ、師匠。ボクが…まさか榊兄から変な虫を移されたなんて…。僕のせいで…師匠の領域(テリトリー)に敵を招き入れてしまった」
何を経由して口から入ったのかなんて、尋ねる方が野暮。
僕は、血が繋がったこの兄妹の真実の関係を…概略的にだけれど榊から聞いている。そしてそれは、櫂もしらない…全て僕の胸の中だけに閉まってあるモノだ。由香ちゃんだって、気付かれているとは思っていない。
今――責めるべきは由香ちゃんじゃない。
そうした事態を予測できず、対策を取れない僕の方だ。
自分の力を、その世界を…過信しすぎていたんだ。
それでも今。
僕にとっての救済策があるとすれば。
「師匠が力で外せたセキュリティ、やはり桜華独自の特別電気系統の支配下にあるみたいだね。このPCでセキュリティ信号を辿れば、同じアクセス拒否ではあるけれど…システムエラー、即ち"認識出来ないもの"だと返るということは、僕達を拒む"東京"支配下の一般的電気系統と、種を別にしていると言えると思う」
同感だ。
「折角こんなに高いスペックのPCがあるのに、活用出来ないなんて悔しいね。ボク達が手元にあるのは、師匠が神崎に作ったノートPC。とてもじゃないけど、メインコンピュータを再構築出来るものじゃないよね」
由香ちゃんの眉が八の字に垂れ下がった。
「救いはある」
そう言ったのは櫂で。
「俺達が来ると見越した上で、セキュリティが外せたのなら、使える電気系統が桜華に残されているのは間違いない。それを知らせるのが必然的事象なら、こちらが求めるだけの機械設備はあるはずだ」
そう悠然と笑う。
切羽詰まった状況でも、櫂の思考はぶれない。