シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
実際――。
三尸を植え付けられた遠坂由香の様子が、時折不自然だと言うことを…馬鹿蜜柑は気付いていたのなら、あの男の本能的なものを信じる限り、誰1人として私達に異常はない。
馬鹿蜜柑はとてつもない馬鹿だけれど、嗅覚には優れた駄犬だから。
犬特有の本能的なものだけは、信じるに価すると思う。
三尸。
朱貴が口から手を突っ込んで、取り出したあれは一体何なのか。
蝶に関連しているらしいが…巨大なサナギというより、私には巨大な蛆に見えた。
とにかくもあんなものが体内にいると考えるだけで、凄まじい吐き気がする。
きっと…次の私の悪夢は、それになるのだろう。
薬が切れた直後に見る夢は、その時私の心を蝕んでいるものが多いから。
願わくば、私の仲間が…私の主が、苦しんでいる姿だけはみたくはない。
――何を…飲んだんだ、桜!!?
結局私は、何によって回復出来たのかよく判らない。
緋狭様によって、何かを口に含んだ気はするけれど、床に零れ落ちていたのは、"ジキヨクナール"という巫山戯(ふざけ)た名前の市販の風邪薬だった。
まさか風邪薬で私が回復出来たわけではあるまい。
散らばっていたのは、きっと私が倒れ込む時に一緒に落としたせいなのだろう。
因果関係はまるでない。
つまりは、迫り来る危機が先延びになっただけで、根本的な解決にはなっていないのだ。
あるのは、依然1回分の薬のみ。
1回だけしか、玲様には使えない。