シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「上岐妙は、イチルと交流があったのだろうか」
櫂様は考え込み…そして言った。
「まず。一方的な被害を被っていると思っている上岐妙に事情を聞き、現実世界でのイチルとの関係を聞く。彼女が真実だけを述べたと仮定して、もしも接点が何もないというのなら、上岐妙がイチルに選ばれたのは"偶然の運の良さ"の可能性が高い。
しかし接点があったというのなら、イチルが上岐妙を選んだのは"必然"であったという可能性が高くなる。
それは上岐妙の…イチルの依代としての潜在力が高いとか、俺達が予想していない特殊性がそこにはあるということだ。即ち、"エディター"だとか言われる胡散臭い役柄をこなせるだけの逸材だということ」
逸材…。
そうなのだろうか。
そうには見えない、平凡女の気がするけれど。
「猟奇事件を引き起こしているかもしれないという、上岐妙の恐れを無くせばいいということは、即ち…本当にイチルが取り憑いている場合、上岐妙が選ばれた理由をはっきりさせた上で、イチルを祓わねばならないということ。
イチルが取り憑いていないという場合。上岐妙の精神性が引き起こしたということで、メンタルの部分に"安心"をやれば落ち着くのだろう」
人間の"不安"というものは、どのような方法で収まるのだろうか。
例えば私の様に、玲様が"α-BR"の薬害発作を抑える薬が、あと1つしかないという"不安"は…実際に次なる薬を見つけるか、玲様の身体の中から完全に薬害の元を無くしたことを確認することで。
例えば玲様の様に、己に眠る"狂い"がいつ発動されるのか判らぬ"不安"は、それを上回る程の絶対的感情の安定を得るか…既に狂ってしまっていれば怯える必要もないということで。
上岐妙。
それでいけば…
無意識に殺人を犯すという恐怖が"不安"だという彼女。
"黄幡一縷"が、上岐妙から居なくなったというはっきりとした確信を持つか、別の人に取り憑いたということを実感すればいいか。
或いは。
"黄幡一縷"のことすら考えられぬもっと激しい感情によって、心の安定を与えるか、既に一縷に"殺されている"とでも思い込ませるといいのか。