シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「なあ…芹霞。もし俺が…」
聞きたかった言葉。
だけど聞けなかった言葉。
今だから。
今なら、不安で堪らない俺の心を…この風に乗せてもいいだろうか。
今は敵となる…紫堂の力の源に、不安を包みこんでもいいだろうか。
「もし俺が…ただの櫂になったら、お前は嫌か?」
「え?」
「俺から紫堂がなくなり、何の後ろ盾もなく、ただの一般人に…それ以下に成り下がったら…お前は、俺から離れて行くか?」
少し…震えた。
去りゆく桜の後ろ姿が見える。
「俺じゃない誰かが紫堂の次期当主になってしまったら…お前は俺を、軽蔑するか?」
紫堂を手に入れ損ねた…軟弱すぎた男だと。
「お前は…俺に似た、久涅の処に行ってしまうか?」
玲と煌に俺が勝るのは肩書きだけ。
あいつらに靡かないお前なら。
今でなくともそのうちに。
俺と久涅が似ているのなら――
紫堂の肩書きがある方に行ってしまうのか?
俺にお前を守る力がなくなれば、守れる奴の方に行くのか?
久涅は多分。
お前に惚れかかっている。
判る。
同じ顔をしていれば尚更。
ならば――
素行はどうであれ、愛情と肩書きがある奴に靡いてしまわないか?
それは、押し込めていた…どろどろとした俺の不安。
吐露せずにはいられなかった。
もしも。
万が一。
そればかりを考えている俺は、最悪な事態だけを脳裏を過ぎらせる。
お前を手に入れる為の強みを失ってもまだ、俺の傍にいて貰えるだろうか。
自信がないんだ。
――芹霞ちゃああん
お前にとって、俺はまだ…傍にいる価値があるのだろうか。
永遠を…俺に捧げてくれるのだろうか。