シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「気をつけろよ、オッサン」
煌が威嚇するように声を荒げて、あたしを引き寄せた。
その顔は、警戒に凄んでいる。
「ひ、ひいいっ。ご、ごめんなさい~」
まるで、大人と子供。
煌は、圧倒的な存在感の差を見せつける。
まあ、煌にかかれば…普通は皆そういう反応なんだけれど。
ぱっと見、誰も可愛いワンコなんて思わない。
怖がってがたがた震え出すのが関の山。
真実は、人懐っこくて誰からも好かれるただのワンコなのだけれど。
煌が相手を受容しない限り、そうした関係は永遠に築けない。
あたしは煌の袖を引き、首を横に振って制する。
「あ~」
煌は頭をぼりぼり掻きながら、溜息をついた。
その時だ。
「黄幡(オウハタ)くん!! 僕の引き継ぎ資料忘れてる!!!」
再び開いた職員室のドア。
数学教師の、田端重人だ。
「あれ? 君達…まだ居たの?」
少しだけ慌てたような彼に、
「引き継ぎって…センセ、まさか辞めちゃわないですよね?」
すると困ったように頭を掻いた。
「辞める…わけじゃないんだれどね。ちょっと病気持ちの娘の容態が悪化して入院することになっちゃって…長期休暇を…」
「お病気なんですか、娘サン」
「うん。君達と同い年なんだけどね、数ヶ月前に突然白血病になってしまって。容態悪化した上に精神的にもおかしくなり始めて、変なこと口走ったり。このままだと脊髄移植しなければあと余命僅からしい。だけど適合ドナーが居ればの話だし…。そんな時医者から、新薬を試してみないかと言われてね。実験体のようで怖い気はするけど、ワラにも縋る思いでさ。
ほらこの子。綾子っていうんだ。可愛いだろ?」
センセは携帯の待ち受けを見せてくれた。
「うわっ、美少女~。センセに似なくてよかったね」
思わず本音を言ってしまったけれど。