シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

はっきりとあるのは上岐妙と思われる少女の…憎悪のような昔ながらの記憶と、櫂様達の昔の記憶のみ。


昔のものだけだ。


もしも。


黄幡一縷の存在が過去で終わっていたら、現在崇められている"イチル様"はなんだというのか?


現実的に考えれば、"死"を挟んで過去と現在が結びつくことはない。


だとしたら、櫂様達の記憶がある昔を是とすれば、現在の一縷像は否となる。


――むしろ…時系列が違わねば、話が成り立たないということさ。



それくらいは、櫂様も…玲様も結論出来たはずだ。


だけど、そうとも言い切れぬものがある。


全てを大衆の"妄想"と片付ける為には…"イチル様"の存在は強烈だから。


そこに誰か、はっきりとした輪郭を客観的に論じられる者が出れば、その仮定は崩れる。


そして新たな問題が上がるだろう。


では、カリスマと謳われた"イチル様"は誰なのか。


イチル様とみなされた屍体は誰のものか。



上岐妙は、その存在が世に認められている。


別存在だと考えた方が自然だ。


だとしたら、今…上岐妙の中にある一縷の意識は何なのだろう。


幽霊…とは私はどうしても考えられないのだ。


私を含めた全員が、彼女に…瘴気を感じないから。


では――


彼女自身が生み出したものか?


或いは。


誰かから無理矢理入れられたものか?



同じ肉体に存在する、2つの意識。


見た処、上岐妙と一縷の意識は混濁しているように思えた。


昔の一縷と、イチル様と、上岐妙の中にいる一縷。


それがイコ―ルかどうかも判らない。


仮にイコールであれば、意識は…肉体を変えて生き続けられるとでもいうのか。


それは――


不可能ではない。
< 736 / 1,192 >

この作品をシェア

pagetop