シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
更に玲くんの目が細められた。
そして――
繋いだままの手を上に上げると…あたしの手の甲に唇を寄せる。
熱い唇の感触が、手の肌から伝わり…予想外の出来事に、反射的にあたしの顔が沸騰した。
「な、なななな!!?」
それだけではなく、玲くんは…ゆっくりと舐め始めたんだ。
艶かしい…赤い舌が見え隠れする。
肌に感じる直の熱さ。
くらくらする。
のぼせそうだ。
「れ、玲くん!!? やだ、何!!?」
あたしの手は強く固定されてびくともしない。
玲くんは――
そのまま…挑発的に櫂を見ていた。
今まで櫂に意地悪することはあっても、此処まで反抗的な…攻撃的な目を向けることがなかった玲くん。
…"約束の地(カナン)"以来かもしれない。
だけどあの時は、櫂が正気でなかったからで。
玲くんは、緊急事態の回避に必死だったからで。
じゃあ、何で今、玲くんは必死なの?
唇を離した玲くんは、櫂に威嚇するように低い声で言った。
「お前は…それでもいいと言うんだな?」
玲くんの真意があたしには見えてこない。
言葉の意味が判らない。
だけど、確実に櫂には"何か"が届いているようで。
櫂は――…
動かなかった。
ただ、端正な顔に悲哀の色を濃くしただけで。
弱弱しく、漆黒の瞳が瞬いただけで。
「……行くぞ」
何事もなかったかのように。
櫂はあたし達にくるりと背を向けたんだ。