シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
 
それが判っているのに、その1歩を踏み出せない玲の"迷い"。


それは、櫂に対しての良心の呵責と…あいつが"本性"をさらけ出すことに対しての怯えだろう。


それでも、日が経つにつれ…判るんだ。


玲がその"迷い"を捨て去り、捨て身になろうとしていることに。


そこまで玲も、深く深く芹霞に惚れ込んでしまっている。


引き返せない処まできている。


だけど。


あいつも"約束の地(カナン)"で気付いているだろう。


芹霞の心に深く根付いているのは、俺達じゃねえ。


櫂だということに。


…だからこその焦りもあるだろうけれど。


だけどよ。


元からそれは判っていたじゃねえか。

元から覚悟して、その上で無謀なことしてるんじゃねえか。


主たる櫂を裏切って、櫂が長年惚れ込んで欲しくて仕方が無い女を、俺達は……身勝手に横恋慕して、櫂から奪いたいと思っている。


櫂が黙認していることをいいことに、俺達は図に乗っている。


本当なら許されねえ。


判ってる。


それでも芹霞が欲しい心は止まらない。


本気モードの玲が、どう出るかは予想はつかねえが、櫂の反撃をも考えれば…俺としてはびくびくものなんだ。


玲の意思で…芹霞を巡る戦いの様相が変わる予感がする。


何かが…膠着状態の俺達の関係を、壊してしまうような微動を始めている。


玲は一番、女慣れしているから、芹霞の気分を害すことはないだろう。


櫂は一番、芹霞と共に居て、唯一芹霞から"永遠"の称号を貰っている。


2人は、男の俺でも見とれるほどの美貌の持ち主で。


頭もよければ凄く強いし。


対して俺は――


――ああ、


芹霞にとって、俺の存在って何だろう。


やっぱり唯の"ワンコ"なのかな。


発情して、喧嘩して…。


人間以下…?


だけど、本物ワンコの方がもっと構ってもらえているよな。

もっと愛されているよな。
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