シンデレラに玻璃の星冠をⅠ
「三尸に心を――
奪われるなッッッ!!!!」
ウェーブかかった煉瓦色の髪。
濃灰(ダークグレイ)色の瞳。
秀麗な顔立ちをした麓村朱貴。
「おかしな瘴気にこの三尸――
庚申(かのえさる)の夜だったのか!!!」
そして、凛とした声を張り上げた。
「急急如律令!!!
彭侯子(ほうこうし)、彭常子(ほうじょうし)、命児子(めいこし)、悉入窈冥之中(しつにゅうようるいしちゅう)、去離我身(きょりがしん)!!!」
途端、凶々しい気が…水紋が出来たかのようにざわめいた気がした。
懐から数枚の黄色い紙を取り出して。
「除三尸九蟲符!!!」
紙が赤い光を放つと共に、清らかな気が波打つようにして拡散した。
瘴気が――
悲鳴を上げている。
符呪と朱貴の声に、瘴気が逃げようとしている。
「――翠くん、鏡を!!!」
そこに現れたのは皇城翠。
「チース…って、うわわわわ、何だこれ…」
「早く鏡を!!!」
翠が取り出した八角形の鏡。
銀の鏡面がきらりと瞬いた時、
「臨兵闘者皆陣烈在前!!!」
九字切の声に反応するように…鏡から銀色の光が波動状に放出された。
視界が凄まじい光の洪水に溢れ返る。
眩しくて思わず僕は目を細めた。
そして――
「随分と…用意周到だな、アイツは!!!」
自嘲気な口調で、朱貴が指を鳴らすと。
バリーーーーン。
硝子か何かが、砕けるような音がして。
ああ、それは…塔で翠の式神が奏でた音そのもので。
光の波が引いた光景。
しんと静まり返った、どこまでも平和な…
日常的な世界が拡がっていたんだ。
そこには…可愛い肉体を持つ芹霞がいて。
蛆に失われたものなど何一つもなく。
また、蛆の存在すら認められない…
正常な…光景。