シンデレラに玻璃の星冠をⅠ

朱貴の両腕には、煌と芹霞が納められていて。


「瘴気に…あてられたか、この男も。三尸の臭いがする」


煌の口に鼻を寄せた朱貴は、玲瓏とした声を出した。


「しやむしは、いねやさりねや、わがとこを、ねたれどねぬぞ、ねねどねたるぞ」


聖なる声の響震(バイブレーション)。


それはまるで、言霊使いの久遠を髣髴させた。


声が途切れると同時に、朱貴の中の煌の身体がびくんと揺れ、声が漏れた。


「あ……あれ…俺……?」


戸惑ったような褐色の瞳。


首を傾げて頭を掻く煌と、芹霞を片腕に抱きとめたままの朱貴と。


そしてただ呆然と立ち竦む僕達。



「さあ、芹霞!!! 豚汁作ってきたからな!!!」


そこに遅れるようにして、笑顔の紫茉ちゃんが現れて。



「ん? 何だ皆して、疲れたような顔で」



彼女は…今此処で起きたことは判っていないらしい。


その上…その大きな寸胴鍋、まさかその状態で家から運んできたとか言う訳じゃないよね?


「重かったぞ、この鍋。しかも電車で目立つ目立つ」


運んで…来たんだ。公共機関で。


「朱貴の車に鍋だけでも乗せて貰えばよかったな。翠とすぐポルシェで出ちまったから、頼むことすら出来なかったし」


しかも男2人は…車なんだ。


「ま、いいけどな。こうして鍋は無事だし」


その天然めいた無邪気さが、妙に可笑しくて堪らなかった。



そんな紫茉ちゃんを完全無視した朱貴が、手の中の芹霞の背中を軽く叩くと、芹霞は声を漏らして目を開いた。



「ん……」



まるで夢芝居。


確かに僕達は、あの気味悪い蛆を見ていて。

確かに芹霞が骨になっていって。


それは…ただの幻覚とでもいうのか?


慌てふためき泣き叫んだだけで、こんなにあっさりと終焉を迎えるのか?
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